採用情報

「子連れ赴任」をして3カ月の社員・川口に、熊本県津奈木町での仕事と暮らしの現在を聞いてみた

「日本の生産者・流通業者・消費者をつなぎ、各地の産業振興に貢献します」をミッションの1つに掲げる株式会社 食文化では、社員が常駐して行政と共に産地の課題解決に取り組む初めてのケースとして、2024年4月から、熊本県津奈木町(つなぎまち)に産地開拓プロデューサーの川口若菜を赴任させています。

これまで青果、水産品と多くの商品をECサイトを通じてお客様に紹介してきた川口ですが、出張ベースで産地へ通うのと現地で暮らしながら取り組むのとでは、仕事の内容や周囲との関係性はどう変わる? 2歳(当時)の娘と二人での「子連れ赴任」に手を挙げた決意と、ワンオペ暮らしのリアルは? じっくり聞いてみました。(インタビューは2024年7月下旬に実施)

川口若菜(かわぐち・わかな)

産地開拓プロデューサー 熊本プロジェクト プロジェクトリーダー

香川出身、2010年入社。夫の転勤に帯同して日本各地で暮らすうちに、知られざる産地の食をその背景を含めて世に届けたいという思いが募り、食文化に巡り合う。好きな食べ物は酔っ払い伊勢海老、マンゴー。開発した代表的な商品は、活〆 天然鱧、越田商店のすごい鯖の干物、hayariのソーセージ頒布会。

井上真一(いのうえ・しんいち)

取締役 未来創造室室長・01担当役員

2005年入社。食文化と他企業をつなぐために、関係者との打ち合わせ、企画会議、通勤時間を利用した情報のインプット、試食……と常に「こだわりの食」について考えている。趣味は料理で、夕食と酒とのペアリングを考えるのが至福の時間。夢は、食を通じて日本の幸福度を上げていくこと。

山城亜紀(やましろ・あき)

執行役員 社長室 兼 システム部担当

2012年入社。システム会社のプロジェクトマネジャーからの転職。自社開発のシステム全般と、会社の人事、労務、コンプライアンスなど幅広く担当。三女の母として仕事と家庭と両方の充実を目指す。好きな飲み物はワイン、芋焼酎。好きな食べ物は古里精肉店の飛騨牛熟成ランプ。

朝8:30から夜6:30まで店舗勤務。「通勤は徒歩15分です」

山城

川口さんが熊本県津奈木町(以下、津奈木町)に赴任したのは2024年の4月で、もうすぐ丸4カ月になります。仕事は、どんな感じですか?

川口

つなぎ百貨堂」(以下、百貨堂)で毎日働いています。お店は9:00にオープンするので8:30には到着して、まず掃除。その後は接客のフォローをしたり、今後の予定表を作ったり、打ち合わせをしたり、発注をしたり。18:00に閉店したら30分後には店を出て、保育園に預けている子どもを迎えに行きます。

ある1日のスケジュール

  • 8:30

    仕事開始
    「つなぎ百貨堂」の鍵を開けて、掃除から始めます。
  • 9:00

    お店オープン
    午前中は地元のお客さんが多く訪れます。ギフト需要の相談に応じたり、伝票をつくったり。接客のフォローをします。
  • 11:00

    オンラインミーティング
    食文化のメンバーと、百貨堂に関するミーティングを週1回、オンラインで行っています。今週は、新しく(無料で!)導入した業務用のソフトクリーム製造機をどう使うかについて、相談しました。
  • 12:00

    販促プラン・予定表作成
    客足が落ち着くので、スタッフにも意見を聞きながら販促計画や商品の訴求ポイントを練り、来月以降の予定表を作成します。
  • 13:00

    昼休憩
    交代で昼食を取ります。私は基本的にお弁当を持参していますが、スタッフの中には一度家に帰る人もいます。
  • 15:00

    発注業務
    定番の地元産品に加えて、食文化のサイトで扱っている商品を新たに百貨堂に置いてみたりしていて、売れ行きを見ながら発注します。近隣に折り込みチラシを配るので、どのくらい売れるか見極めることが大事なのです。
  • 16:00

    売り場づくり
    週末に開催するフェアに備えて、売り場を準備します。棚を移動したり、飾りつけをしたり、梱包資材の準備をしたり。
  • 18:30

    退社
    保育園に子どもを迎えに行って、19時前には帰宅して夕飯の準備をします。

川口

就業時間帯も、労働時間も、東京勤務の頃とそれほど変わりませんが、通勤時間が短くなったのは大きいですね。以前は片道1時間少々だったのが、ここでは徒歩15分。往復で2時間近くも節約できて、3歳になったばかりの娘と過ごす時間に使えています。昨日は仕事の後に一緒に海へ行きました。海も近く、家から車で10分ほどの距離なんです。

山城

娘さんはどうですか? うまくなじんでくれましたか?

川口

保育園には、1週間の慣らし保育を経てそのまま慣れてくれました。首都圏にいるときは3カ月に1回は流行り病にかかって1週間休み、という感じだったのに、熊本に行ってからは一度も休んでいないし熱も出ていません。空気がいいということもあるのかな。教育に熱心な首都圏とは違って、子育てはのんびりした感じですね。習い事を何か探してこちらでもさせるかどうかを考えているところです。

山城

職場と家と海が10~15分の距離って、首都圏では考えられない環境ですね。ところで、百貨堂ってどんなお店なのでしょう?

川口

国道に面しているちょっとおしゃれな物産館・道の駅みたいなお店です。「アートの町」として知られる津奈木町だけあって、建物のデザイン性も高くて。売っているのは主に地元産の青果や加工品です。津奈木町だけでなく、近隣の水俣・芦北地域のものを扱っています。フルーツが主力で、今はちょうど肥後グリーンメロンが終わったところ。このあと梨が始まります。冬になるとデコポン、そのあとは河内晩柑が並びます。野菜では、生でも食べられるサラダたまねぎ「サラたまちゃん」が有名です。

 

 

川口

運営スタッフは私を含めて5人です。来店客は平日だと30~40人くらい、週末は100人くらい。地元の人が多いですが、帰省中の人や観光客もいらっしゃいます。

山城

百貨堂にまつわる仕事は、川口さんの業務の何%くらいを占めていますか?

川口

本当は80%くらいにしてもっとほかの仕事もしなくてはいけないところですけど、現状は100%になっています。私自身、食に関する接客業は学生時代のアルバイトを含めても未経験だったので、ゼロから経験を積んでいる段階です。

山城

そもそも津奈木町のリアル店舗の運営に、食文化の社員が常駐でかかわるようになった経緯について、プロジェクト全体の責任者である井上さんから説明してもらえますか?

新型コロナ禍で行き場を失った玉ねぎがつないだ「縁」

井上

僕は食文化と他企業・自治体をつないで新しい事業を立ち上げることをミッションに、プロデューサーとして産地に関わっていて、熊本県南で仕事をするようになったのは2015年くらいから。津奈木町と深く関わるようになったきっかけは新型コロナ禍でした。子どもたちが作っているサラダ玉ねぎが、行き場がなくて困っているというのです。いつもは学校給食で使っていたけれど、コロナで学校が休みになってしまい玉ねぎの「出口」がないので、食文化で売ってくれないか、と。すぐに引き受けました。

実際に売ってみたら、すごく評判がよかったんです。「子どもたちが作った農作物なんて、普通は買えない」と。市場に流通するものは大人が作ったものばかりだから当たり前なんだけど、僕たちにとっては意外な反響でした。さらに発展させて、商品を売るところ(ECサイトにページを作るところ)から子どもたちがやってみてはどうかということになり、次年度には正式に授業の一環として取り入れられ、子どもたちが作る玉ねぎは、購入者からのコメントも多く届くような弊社の人気商品となっています。実際に子供たちが作ったページはこちらです。地元のテレビ局の取材も受けました。

 

 

井上

そうした関係性ができたところに、今度は百貨堂の運営体制を変えたいということになり、食文化が運営をやってくれないかという話が来たんです。

うちの社員って、地方創生がやりたくて入社したというメンバーも多いので、地域に入り込んで仕事をやってみたい人もいるのではと考えて、「最低1年の赴任」という条件で社内公募したところ応募があり、最も熱意があった川口さんに行ってもらったという経緯です。食文化では今まで、地域のものをネットで売るための手段として商品プロデュースをしていましたが、地域プロデュースそのものを受けるというのは新しい取り組みです。

山城

地域プロデュースを行政と共に一緒に行うために、社員が地域に赴任するという働き方も、東京に事業の場を持つ食文化にとって初めてのケースになります。制度がなかったので、今回新たに転勤規定を整えました。シンプルな単身赴任とは違って子連れで赴任するケースなので、赴任が家族にとってネガティブにならないようにと考え、帰省の際の子どもの分の交通費や、川口さんの夫が熊本に行く場合の交通費も会社で負担できるようにしました。また、社員を地域に赴任させる取り組みは今後、長く続けていこうと考えているので、後に続く人が「私も行きたい!」となるように、社宅や家財の手配、赴任手当なども整備しました。

川口

月に1回の頻度で帰省できる交通費を、子どもの分まで出してもらえるのはとてもありがたいです。普段はビデオ通話などで家族のコミュニケーションをとっていて、月に1回は家族が集まれるようにしています。

井上

川口さんがそんな風に感じてくれていてよかった。食文化は地域の産品を売るのが仕事なので、地域に入り込んで地元の方と膝を突き合わせて生活してもらい、海に山にと出かけて地域の魅力を体いっぱいに浴びて実感してもらう機会を増やしたいと考えているんです。情報だけで知るのとは全然違う学びになるはず。そして、コロナ禍を経て多くの人が気づいたけど、働き方はもっと多様にできるはずだと。

山城

川口さんは14年前に入社したときから、地方創生に関心が高かったんですよね?

町の課題解決は、やりたいことのど真ん中だった

川口

地方創生というか、「まちづくり」に興味があって。米国のポートランドのケースなどを本を通じて知り、「こんなふうに理想を形にしていく仕事があるのだ」とわくわくしました。今回の話はやりたいことのど真ん中。「行きたい!」とすぐに手を挙げました。中に入ったほうがいろいろなものが見えますからね。

食文化では様々な地域の様々な商品に関われますが、当然のことながら通販で扱うことを前提に商品を探して販売します。でも、実際には産品の「出口」は、ECサイトでの販売以外にもありますよね。それについて、視野を広げたいという気持ちもありました。

山城

川口さんの「やりたいこと」とは、具体的には何だったのですか?

川口

町の中で課題になっていることを一つひとつ解決していきたいです。今回、町から要望があった百貨堂の運営というのは、課題の一つ。まずは店の売り上げを伸ばし、新たな商品開発に取り組むことで、販売や商品加工にかかわる「雇用をつくってほしい」のだと理解していますが、その根底には、町の魅力を高めて「人口減に歯止めをかけたい」という、より大きな課題解決への期待があるのも感じます。津奈木町も日本各地の町や村と同様に人口減に歯止めがかからず、4~5年前に約4500人だった人口は、最新のデータ(2024年6月)で4156人に減っているというのが現実です。

山城

人口減への歯止めは大きな課題なので、まずは百貨堂の運営にじっくり取り組むことからになりそうですね。ECの仕事から販売の現場に入ってみて、気づいたことや、手ごたえを感じたことはありますか?

川口

手ごたえがあったのは、桃ですね。このあたりにも地元産の桃があるのですがあまり甘くないこともあり、「桃を食べる習慣がない」とされてきたんです。でも、ケーキ屋さんに桃のケーキが入ったと聞くと、みんなわーっと買いにいくそうなので、実は桃は好きなんだけど、生の果実としてはあまり売れていなかった。そこへ、「桃のイベントをやります」と案内したところ反応が大きく、山梨などから集めた桃の販売は大きな手ごたえがありました。

 

 

山城

おいしい桃を食べたいという思いは津奈木町の皆さんにもあったのですね。お客さんと直に接してみて、気づいたことはありますか?

現場で気づいた「ギフト需要はお中元やお歳暮だけじゃない」

川口

気づいたことで一番驚きだったのは「ギフト需要はお中元やお歳暮だけじゃない」ということです。おいしいものがあったら知り合いに届けたいし、何かもらう関係性があるから自分からも贈る。田舎に住んでいるのは高年齢層が多いというバイアスがあるかもしれないけれど、そういう「(相手を思う)贈り合い」文化が、いわゆるギフトシーズン以外のギフト需要をつくっているんです。これは、お中元やお歳暮にぐんと増える注文数に注目しがちなECビジネスでは気づきにくい点だと思いました。

そして、その文化に百貨堂がひもづいている。みなさん、百貨堂にアドレスを託しているんですよね。

山城

百貨堂にアドレスを託すとは、どういうことでしょう?

川口

注文されるときに「前に百貨堂から送ってあるから探せば出る」って言われるんです。住所も名前も全部入っているからと。店で使っているシステムでは、送り主を検索すると以前に送った商品名が履歴で出てくるのですが、ほんの2、3カ月前の注文も多々あります。つまり、そのくらいの頻度で贈り物をしているということなんです。

こうした「贈り合い」需要は津奈木町だけでなく、日本全国で同じようにあるのではと。食文化の事業にも、横展開できるヒントが隠されているように感じます。

山城

消費地で暮らしていると、「お中元だから、お歳暮だから」というギフト需要になりがちだけど、産地だと「おいしいものが今年もできたから、あの人に」というギフト需要があるわけですね。

川口

さらに言うと、毎年同じものばかり贈り続けることに閉塞感があるのでは、とも感じます。そんな方に「いつもと違うおいしいもの」を提案することで「今年はこのおいしいものをあの人に贈りたい」という気持ちが生まれ、新たなギフトとして利用されるようなケースも出てきました。このあたりの手ごたえのあった商品から、百貨堂での商品開発や仕入れのヒントが浮かんできそうです。

山城

なるほど、そういうことなんですね。井上さんに聞きたいのですが、今回の津奈木町のケースを、食文化としては実店舗のビジネスの1つの形として期待しているところもありますか?

EC事業の弱点はリアル店舗の学びで補える

井上

当然あります。食文化の仕事は商品プロデュースが根幹で、磨き上げた商品をECで売っているわけです。そのビジネスの軸を増やすことは常に意識していて、今回は商品プロデュースのノウハウを津奈木町という地域に持ち込んでコンサルタント的に商品プロデュースにかかわるわけですが、その過程で、都市部に比べて地域は地代が安いから、リアル店舗をうまく育てて将来的には独り立ちできる事業が作れるといいなあと期待しています。

もう1つ、EC事業にはお客の顔が見えにくいという弱点があって、こればかりは体感しないと理解できない。やっぱり、接客経験が長いとか、飲食の現場やっていたとか、言葉や商品にお客がどのように反応するかがわかっている人は、ネット販売の場でもお客の心を動かす言葉や写真を選ぶことができて強いわけです。だからこそ、リアルで学んだ経験をECに生かすということも、今後は必要になっていくと感じています。

 

 

山城

初めてのケースとして川口さんには大きな期待がかかっているわけですが、これまでの出張ベースと、赴任するのとでは、地元の方からの接し方が違うと感じますか?

川口

地域に入ってみたら、商品開発に関する「コンサルタント」として見られているように感じます。これまで私は地域産品について、ECサイトで売るための商談や相談は経験していますが、それ以外の販路についても具体的な提案を求められています。

販路が変われば、商品設計において目指す価格帯や、パッケージや箱などの見せ方も変わってきます。売れる商品のカテゴリーさえ違ってくる。ここに長く滞在する間に、どこまでの提案ができるか、日頃からいろんなことにアンテナを張って、自分のものにして言葉にできる状態にしておかないと、と思います。もう、得意・不得意とか言っていられません。今までの経験や引き出しをすべてさらけ出しても、足りなーい!という感じです。

井上

いいじゃない! すごく成長できる環境だよ。

川口

百貨堂で行う様々な施策にしても、失敗できないし、もし失敗したとしても「これが理由だから、次はこうします」と次につなげていかないと。「何しに来たの? この人」と思われてはいけないですからね。本当に困ったら「井上にも聞いてみましょう」と言うことにしています(笑)。

挑戦したいのは「マグロ一本を解体するイベント&即売会」

山城

これからやってみたいと考えていることを聞かせてください。

川口

町ではなかなか経験できないことを地元のみなさんが欲していると感じていて、挑戦したいのは「マグロ一本を解体するイベント&即売会」ですね。豊洲市場からきている食文化なので、ぜひ提案できればと思っています。あとは調理器具の展示即売会とか。ライフスタイルショップなどで扱うようなおしゃれな調理器具を売る店がない地域なので、楽しんでもらえるかなと思います。

商品プロデュースの面では、生産者さんから「からいも」(さつまいも)やとうもろこしの加工品を作りたいとの声があるので、お土産になるようなスイーツは作ってみたい。百貨堂にはカフェ機能もあるのでメニュー開発もしたいですね。

実はこのあたりは水俣病があった地域に近いので、食の安全への意識が高く、有機農法、自然農法に力を入れている生産者が多いんです。まだ探り探りですが、実現を支えられたらと思っています。水産品にもいいものがあるので、食文化で扱うことができないかな、とも考えています。

山城

赴任中に、プライベートでやってみたいことはありますか?

川口

旅行ですかね。津奈木町をベースに、九州をいろいろ巡ってみたいと思っています。すでに行ったのは、鹿児島県の指宿(いぶすき)で、砂むし風呂に入りました。あ、娘は立って待っていましたね(笑)。あと、回転式そうめん流しの発祥の地とされる指宿市の唐船峡にも行きました。仕事でやりたいことを考えると、とても1年で赴任を終えられそうもないので、まだいろいろ行けそうです。

井上

赴任期間は、2年は必要だな。4年くらいでもいいんじゃない?

川口

4年はちょっと……夫には最低1年と伝えているので。とにかく頑張ります。

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